2020年があけました! 新年おめでとうございます。
今年は、西暦では20が二つ重なり、令和も二年と語呂も良く、皆さんにとって良いことが重なりますように心からお祈りいたします。

文化的進化の必要性

さて、年初にちなみ、私たちが今こそ考えなければならないと思うことについてお話ししましょう。
私は、最近、次の本(以下この本)を読み終えました。
“Richard・C・Francis著、西尾香苗訳(2019/9) 「家畜化という進化:人間はいかに動物を変えたか:原題 DOMESTICATED; Evolution in a Man-made World」、 白揚社“。
長い自然史の中で野生動物が家畜化されたことによって、体型、性質や性格、行動などが生理学的、行動学的にどのように変わってきたのかを、私たちの身近にいる主だった家畜(イヌ、ネコなどのペットも含む)を具体的にあげてそれら個々について科学的に詳細解説している、あまり類のない本なのですが、中でも私が評価したところはその家畜たちを必要として並行して歩んできたヒトもどのように変わってきたのかを論じていることであり、私たちがついつい見失いがちな環境の変化とその生物学的進化への影響について、大事なことを気づかせ考えさせてくれる内容でした。
その中のひとつをあげますと、本稿の小見出しにあげた「文化的進化」ということなのですが、これは「情動的進化」とも言われています。
なお、ヒトの進化はその内容によって「生物学的進化」と「社会的進化」に分けられます。
「生物学的進化」とは46億年と言われる地球史の中で、生命が誕生してから39億年の間に辿ってきた生物(動物)としての進化のことであり、陸上動物では4億年、哺乳類では1~1.2億年、猿人では700万年ほどの間に起こった本来の生物学的な進化のことをさします。
一方、「社会的進化」とは、特にヒトが生物学的進化を経る中で重ねて獲得してきたいわゆる人間的な進化のことであり、「社会的感性を持つようになる状態」を言います。この社会的感性とは他を意識して決まりを守る、悪さをしない、そしてそれができないときは恥や罪の意識を感じるという情動的な心の反応から起きるものであり、これによりユーモア、意志、社会的アイデンティティが培われ、社会交流の基になるとされています。アイデンティティとはご承知のように「自分が何者であるか」という自己同一性意識を持つことであり、これにより国、民族、組織などの特定集団への帰属意識が目覚めることになるわけです。

まず、一般論としてですが、動物や植物は自然選択という自然環境由来の選択圧により進化してきたということはお分かりだと思いますが、その上にヒトによる人為選択が加わるものを動物では「家畜」、植物では「作物」と言われてきました。中でも特に家畜は、ヒトが新石器時代から野生動物を飼い慣らして作り上げてきたものであり、まさしくヒトの進化と共に家畜も受動的のみならず能動的にも進化してきたことが分かっています。
彼の論説には、動物は闘わせるために特別の人為選択をしてきたものは別として、家畜化することによって総体的に攻撃性が低下し、飼い主の意図を読み取るように変化し、ヒトに対して協力的に行動する性格、すなわち共同性(ヒト慣れ:能動的従順化)が備わってくると述べられています。
それにともない、野生の先祖においては幼体のときでしか見られなかった形質が成体になっても維持され、野生に比べ行動が未熟で成獣になりきれない状態が残る一方、食料確保や住みかを確保する苦労から解放されたこともあって、発生、発達の最終時期が早まったり、性成熟が早くなったりするという傾向が現れると述べています。このことは現存する家畜とその原種であったとされる野生種を比較すると、確かにそのような結果をみることができます。
人間自体も、現代人は昔の人間に比べると家畜同様に非自然的になってきていることは明らかです。これは社会の中で管理統制されて自由を失った個々人に無意識のうちに起きてくる、あたかも社会や組織が飼い主のように感じたことから起こる家畜化現象の現れではないかと私には思えるのです。

この本には『ヒトの文化的進化が推進力となって、自然選択がそれに引っ張られた』と述べられていますが、「ヒトの集団で活動するという性質」こそが「ヒトを人間であるようにさせてきた」ということになるのでしょう。
この観点は非常に大事で、これまでよく言われてきた「創意工夫して物を作り出すことに必要な知能(IQ*)の発達」より、「仲間との協調性を持つことで共同して事を為すという社会性を可能にした情動面の能力(EQ**)」を持つほうが人間の進化には重要であったと言えるのです。(*IQ: Intelligence Quotient, **EQ: Emotional Intelligence Quotient)
そして、この文化的(情動的)進化の原動力となったのがまさに「ことば」であり、この言語から生まれる会話とコミュニケーションが「社会性を獲得するのに必要な文化的な足場を集団で作り出す能力」を高め、それがその集団の力量差として現れてきたと考えられるわけです。この本では「その力量の有無と維持、強化こそが今後の人類の先行きにも大きな影響を与えるであろう」ということまでは言及してはいないものの、私自身はこの本を通してそれが頭に浮かんだわけです。
今まさに世界各国が内向き思考に変わってきていることと、その結果としてのグローバル経済からブロック経済への逆戻り現象の背景には、現在の世界の交流から自主的な情動的活動が薄れ、先に述べた社会的進化が後退していることによる作用があると私はみています。
このことは、IQもEQも機能していない、あるいはIQだけが先走ってEQによるコントロールが効いていない言動が社会の諸事を動かしているという危機管理上危険な現象が拡大してきているとも言えるのです。

その結果として、各種科学的データを基にして地球史において「私たち人類の絶滅率が急速に上がっている」と各所で叫ばれているのに関わらず、本質すなわち自然の実態と変化を見ないで、あるいはあえて無視した偏狭な争いが随所にみられるのが今の世界の状況ではないでしょうか。
この背景には、野生の世界ではみられない人間特有の凶暴性、強欲性、自己中心性などがそこかしこに潜んでいるためとも思えるのですが、その本質には・・・カトリック教会が唱える七つの罪源を借りて表現するならば・・・次のようなヒトの本能的な性分があると言えるでしょう。
高慢(pride)、貪欲(greed)、妬み(envy)、激怒(復讐wrath)、色欲(lust)、貪食(大食gluttony)、怠惰(sloth)。
今後、この状況がどう改善されていくかが、私たち人間にとって一番大事にすべきことであるはずなのに、人々の行動と結果からみると現状は悪い方向をたどっており、その流れに気づかず、変えることが難しくみえるのはどうしてなのでしょうか。やはり、それは「社会的感性を持てるようになるという人間の社会的進化」が退化しているからではないでしょうか。そうであるのならそれこそ人類の将来にとってまさに由々しいことと言わざるを得ないのです。

年を新たにして、私たちは以上のようなこと、すなわち今後の社会に本当に必要なことは何なのか、どういう生き方をするべきなのかのその根源を再度考え、見直す必要があると思います。
たしかに人それぞれ目前には色々な事情があることは理解できるのですが、そうかといってそれに押し流され、あるいは麻痺し、自分が本来望んでいた人生からかけ離れてしまってはいけないのです。
個人のみならず、その集団である社会組織までもがこの流れに乗る風潮をそのままにして良いのか」ということを真に自分達のこととしてとらえ、将来を見据えて考え、講釈だけではなく自分達身辺のできること、たとえば整理・整頓・清潔・節約などから積極的に実行していかなければならない時期なのです。このような真摯で着実な考察と行動こそが社会をより良くする原動力になるのであって、心中を隠すことなく協力し合う活力ある社会の醸成のために皆さんが進むことを切に願って本稿を書いたしだいです。

大事なことですのであえて繰り返させていただきますが、今の世界の状況を包括的に眺めると内向きの渦に巻き込まれ、各国の政治経済が流され、それがまた私たちの周囲の雰囲気まで変えてきているということがお分かりだと思います。歴史は繰り返すという観点からみると、このままでは過去の世界大戦前の状況に逆戻りしかねません。このことに少しでも多くの人が気付き、相互協力をもってその傾向を是正し、同じ不幸が再来しないように行動することがいま一番大事なことなのです。
そしてこのことが、この地球上に住む生物が絶滅してしまう時期を少しでも長引かせることにもつながることなのです。
この記事の挿絵に入れたのは生物の生存曲線Living survival curveなのですが、万物は全て大なり小なりこのような過程を経て生滅を繰り返しているのであって、残念ながらそれを永遠に長引かせることはできません。しかし、皆さんの心がけと努力でそれを延命することは可能だと思います。いや、人類の英知と勇気ある行動でこの曲線を地球ともどもX軸の右側方向に伸ばさなくてはいけないのです。その中でも特に成熟期の延長について、全ての分野が一致協力して力を尽くすべきであり、このことは未来の人間の問題であって自分達には関係がないと無視してはいけないのです。
今年はこのことが良い方向に向かうことを願ってやみません。

ご案内:ウエブサイトの終了について

さて、私ごとになりますが、社会の第一線を退いて後、まだ余熱がある内にと思って2015年8月1日にこのホームページを開き、これまで特に次代を担う人たちを対象にして学び舎と称して人間の生き方を中心に色々お話や情報の提供をしてきました。またその間に、人生読本に類する著書を6冊発刊し、その紹介もしてきました。
しかし、そのように現役時代も含めて長い間、外との交流に努めてきたものの、今ふと思うことは「自分自身というものをしっかり見つめて、その心の底と対話したことがはたしてどのぐらいあったであろうか」ということです。そのようなことで、残る時間内にここらで落ち着いて、杉田玄白翁にならって自分との対話、特に「自分の影との対話」***をじっくりしてみようという考えに至ったわけです。
***杉田玄白著、緒方富雄訳注 「形影夜話―自分の影との対話」医歯薬出版
これは、自分はまだまだ人間的には未熟だと思う反省からきているのですが、言うなればここらあたりで自己家畜化の流れを断ち切って自然回帰し、遅まきの「野生化」のための修行を通して先行き雲に乗っても転げ落ちない仙人を目指すということなのです。

ウエブサイトの閉鎖のご案内

以上のような理由もあって、私のWebを通しての活動はこの今年3月末をもって終了させていただきます。ただし、このホームページは今年6月末までご覧いただくことを可能にしておきます。

これまでご利用頂いた方々には大変申し訳ないのですが前記事情をおくみとりのうえご了解願います。
このウエブサイトには学び舎というかたちで本報を入れて41編の記事を掲載してきました。それらに対する読者の方々からの反応をみますと、中でも特に脳神経系・精神病理領域、微生物管理(衛生管理)、マネージメント領域などについての記事が好評で、私としても書いて良かったと思っております。
しかし、そのような訳ですので、皆様が仕事や教養として今後も参考にされたいと思われる記事については、例えば次のような手法で6月末までにコピーをして残されるようお願いいたします。
「ブラウザにGoogle Chromeをお使いでしたら、該当するページを開いた状態で、上部メニューの「ファイル」>「印刷」と選択し、その中に表示される「送信先」をプリンタではなく「PDFに保存」と選択。あとはその下にある「詳細設定」からご希望の設定をして、最後に「保存」ボタンを押せば、指定した場所にPDFが書き出されるはずです。」

以上よろしくお願いいたします。これまでありがとうございました。

2020年 元旦
northern hermit 北の仙人こと高田 紘一

追記

人間が自分本位の安心安全と豊かさを追い求めすぎると、自然との乖離や、自然に無関心、無視というような現象を引き起こします。そしてそれらが当人達の社会的成長を阻害し、協調性の欠如した人間を生み出すことで、国家間の交流までが悪化してくるという負のスパイラルが発生してきます。その状況におちいりだしているのがまさに現状ではないかと思います。このことをぜひ心にお留めおきください。